ざっくり分かるファイナンス
本書を読むことで、本当にざっくりと会社経営者の意思決定のプロセスをしることができます。そのプロセスは日常生活にも大いに活かすことができそうです。
本書は、日産自動車の財務部で勤務していた著者の経験を踏まえつつ、具体的かつ分かりやすくファイナンスについて解説してくれているものです。
本書によれば、
ファイナンスとは、ひと言で言うと、「企業価値の最大化」をかはるための意思決定に役立つツール(道具)。
P6
とのことです。
ツールということですから、使い方さえおさえれば、立場によらず(経営者であろうがなかろうが)それを使いこなせる可能性があるということです。
会計とファイナンスの違いは大変分かりづらいものですが、本書はその区別についても明快に説明をしてくれています。
一番の違いは、会計は「利益」を扱い、ファイナンスは「キャッシュ」を扱うということです。
P14
利益とは売り上げから費用を引いたものですが、これは商品(物)の動きがあった時点で認識されます。つまり、今月の売り上げが来月に支払われる、という契約であっても、会計上は今月の時点で認識されるのです。
一方、ファイナンスは純粋にお金の流れでもって認識されます。つまり、今月いくら売り上げたとしても、まだ入金が済んでいなければ今月はファイナンスになんの変化も生じません。
ここからわかる会計とファイナンスのもう一つの違いは、会計が過去を扱うのに対して、ファイナンスは未来を扱うということです。
会計が扱う利益は、過去に行った行為の結果です。
一方、ファイナンスは「どうお金の流れを作るか」を考える未来志向の行為です。
投資などはその最たるものでしょう。設備投資にお金がかかるとしても、その設備導入により将来生産性が上がるのであれば実施すべきです。
本書はそのタイトル通りファイナンスに関するものですが、その第一章は、ファイナンスと切っても切れない会計、特に「財務会計」について詳しく説明をしてくれています。
本書を読めば、決算書(バランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書のいわゆる財務三表)の構成要素についての理解の基本がおさえられると思います。
(ファイナンシャル・プランナーの試験にも財務三表についてはよく問われるので、個人的には大変勉強になりました)
続く第二章では、コーポレートファイナンスについて書かれています。
コーポレートファイナンスとは、
投資に関する意思決定(投資の決定)と、その投資に必要な資金調達に関する意思決定(資金の調達)と、そして運用して得たお金をどう配分するかという意思決定(配当政策)、これら三つの意思決定にかかわるものP66
とのことです。
経営者は常に上記した意思決定を求められます。
信頼に足る意思決定をすることが出来れば、投資家は「ここはよい企業だろう」と判断してくれやすくなるので、リスク認識が下がります。
株の配当は、リスク認識が高ければ高いほどハイリスクハイリターンの原則で高くなりますから、経営者側からすれば、信頼を勝ち得ることが出来れば配当金を抑えることができます。
これも一つのコストカットです。
商売だけではなく、一般の人間関係でも同じことが言えそうですね。
普段から信頼を得るような誠実なつきあい方をしている方が、何かと都合がいいのです。
第三章では、お金と時間の関係について述べられています。
「お金の時間価値」とは、簡単にいってしまえば、「明日のお金より、いまのお金の方が価値がある」
P124
というのが、お金と時間の関係です。
お金は運用していける性質を持っているので、投資に回すのが早ければ早いほど利益を生み出す可能性をもっているからです。
本書にも
キャッシュを受け取る場合は、なるべく早く受け取った方がその分、利息を稼ぐことができるのでお得です。
P130–131
とあります。
このあたりのことは、僕も記事にしているので参考になさってください。
第四章では、フリーキャッシュフローの観点から企業価値を最大化させる方法についての記載があります。
運転資金のマネジメントなどでそれを目指すようです。
ただ、この部分の話は株式を発行しているような大きな企業に主に関係する話なので、個人開業をしているような僕たち心理カウンセラーにはあまり関係のない話かもしれません。
第五章は、経営者がどのような事業に投資をすれば企業価値を高められるかについて書かれています。
ここも第四章同様、大きな企業に関係する話ではあるのですが、
世の中の経済活動は、すべて「価格と価値との交換」です。つまり、支払う価格よりも価値の高いものを常に手に入れ続けることが、経済的に豊かになるということなのです。
P174
とある通り、日常の意思決定にも参考になる話です。
自分にとって価格以上の価値が見込めるものであれば、購入すればよいのです。
常々思うのですが、お金のことを勉強すると「価格」以上に「価値」が重視されていることに気づきます。
僕たち心理カウンセラーの業界はあまりお金の話をしません。タブー視すらされています。
しかし、心理学においても近年は「価値」が重視されてきています。アクセプタンス・コミットメント・セラピーなどはその典型でしょう。
こう考えると、お金の話と心理学の話はそれほどかけ離れたものとは言い切れません。
「価値」という精神活動は経済活動に不可欠だからです。
「行動経済学」を勉強したことがある方には、この手の話は伝わりやすいかも知れませんね。
心理学にもお金の話にも興味ある方は、一度行動経済学も勉強されてみると面白いですよ。
お金に的を絞った心理学の話として読むことが出来ます。
僕のオススメはこちらです。
最終章の第六章では、お金の借り方・返し方について、レバレッジ効果を踏まえつつ分かりやすく書いています。
レバレッジとはテコのことです。重い物もテコを使えば持ち上げやすくなりますよね?それと同じで、自分の手持ちの資金だけでは買えなかったもの(例えば家)も、銀行などでローン(レバレッジ)を組むことで、買えるようになります。
FXなどもレバレッジをかける投資手法としては有名です。
以上のレビューを読んで「難しそう」と思われたかも知れません。
しかし、本書の特徴の一つなのですが、 要所要所に【おさらい】があります。これがあることで定期的に話の復習ができ、無理なく読み勧められます。【おさらい】のなんと分かりやすいこと…!
同じファイナンスを扱うものでも分野は多岐に渡ります。ファイナンシャルプランナーの試験ですら、実は一番簡単な3級の試験でも個人資産相談業務、保険顧客資産相談業務、資産設計提案業務の三種類もあるのです。
しかし、「経営」に関するものはありません。経営からの視点からもファイナンスについて勉強したいと思っていたので本書を手に取ってみたのです。
結果的に、今まで勉強してきたことと重なるところはもちろんありましたが、経営者視点でファイナンスについて学べたのは大きな収穫でした。
それ以上に「日常にも活かせる考え方だ」という発見があったことが大きかったです。
生産的な生き方をするヒントが本書には詰まっています。