小さくても勝てます
理容師の話ですが、充分に心理カウンセラーの開業モデルとして参考になります。
本書は、理容師が経営のコンサルティングを受けながら、事業を拡大していくストーリーを小説“風”に書き綴ったものです。
“風”と書いたのは、本書に登場する主人公やその主人公が働く理容店が実際に新宿に存在しているからです。
もちろん、内容を面白くするために多少誇張した部分もあるでしょうが、お店が実在している事実は、本書の内容にかなりの説得力を持たせることとなっていると思います。
しかも、小説風なので、僕のような経営学に疎いものでも、「デビルズ・アドボケイド」など心理職にも比較的なじみのある概念はもちろん、「スリーヒットセオリー」「キャムズ」「OEM」などの概念もわかりやすく学習できる点も大変嬉しい文章構成となっています。
以上のレビューからも明らかなように、本書は心理職の話ではありません。理容師の話です。
「なぜ『心理職でもできる〜』というタイトルのブログに理容師の本を紹介するの?」と思われた方もいるかも知れません。
しかし、「心理職の開業のモデル」として読む事ができれば、本書は僕たち心理職に非常に強い希望を与えてくれる書籍なのです。
正直、さすがに僕には理容業界のことはよくはわかりません。
ですが、「髪」と「心」の違いはあれど、その人個人と一対一で向かい合い、その人の幸せを願っている点は全く持って共通しています。
それに、
高度な技術もある、奥も深い。
P259
点も共通しています。
更には、
でも一方で、儲からない商売だと思っている
P259
などは瓜二つではありませんか。
まさに心理業界のこととして言い換え可能でしょう。事業形態や内容もかなり似ています。
そんな似ている業界で実際に成功している人がいるという事実は、僕たち心理職にも大きな希望を与えてくれる、と考えるのはあまりにも夢見がちに過ぎるでしょうか…?
僕は今の心理臨床の世界に危機を感じています。
僕たちは高度な技術もあり、奥も深い仕事をしているにもかかわらず、組織の中に従属することがスタンダードとなっていて、それに甘んじてしまっている部分があるように思うからです。
もちろん、組織で働くことが悪い訳では決してありません。
療育施設には療育施設の、病院には病院独自の心理職の働き方は確かに存在し、尊重されるべきです。
しかし、それ”だけ”ではいつまでたっても(言葉は悪いですが)使われているだけの存在になってしまうように思います。
雇用形態も非常に不安定です。非常勤掛け持ちで、1000円前後の時給で雇われていることだって決して珍しいことではありません。
こういった現状に強い危機を感じます。
僕は、そろそろ開業モデルを洗練させていくことが必要な時期になっているのではないかと考えています。
そのためには、経営の知識をつけることが非常に重要なことなのではないか、と思うのです。
もちろん、それだけではなく、本書の主人公のようにお客さんが喜んでくれることをずっと考え続けることも大切でしょうし、一見、経営や本業とは関係のない事にも素直に向き合い勉強し続けることが必要だとも思います。
「これは理容師の話。自分は心理職だから関係ない」と思わず、自分の業界のことに引きつけながら、是非想像力をたくましくしながら読んでみてください。
今の心理業界の現状に少しでも危機を覚えている心理職の方、開業を考えている心理職の方は本書を一度手にとってみることをオススメします。