ヤバい経営学
ホントにスーパー経営者!?本田宗一郎さん、めっちゃヤバいやつですやん……!
本書は、学術的な経営セオリーを書いた本でもなければ、特定の経営者の武勇伝を伝えたものでもありません。
多くの研究を通して見えてきた、会社経営の中にある「隠された真実」を浮き彫りにしようとした本です。
つまり、教科書レベルで言われている経営理論を実際に適応すると、どうなるのか、どういうメカニズムが働いて上手くいったりいかなかったりするのか、その現実を暴いているのです。
これが「ヤバい経営学」です。
本書はCapter1から8までの8章から構成されていますが、ここでは特に勉強になったCapter1 Capter4の2つの章の内容と感想を述べていきたいと思います。
Capter1では、「真似すること」のヤバさが書かれていました。
例えばこんな風なことです。
経営でも芸術でも武術でも、何でもそうですが「まずは真似から入れ」とよく言われます。この教えに間違いはないでしょう。
守破離とは武道や芸術なんかでよく言われるもので、その合理性に疑いはありません。
会社経営でも同じです。まずは真似から始めるのが一般的でしょう。
しかし、これが目的化し「みんながやっているから」となったり、集団の圧力がかかってくると話が変わってきます。
僕たちは「みんながやっている」ことは正しいことだと錯覚する生き物です。だから、時に無自覚にそれを続けます。
そして、正しいことは良いことだとも無条件に認識します。
ですから、「みんながやっていること」とは違うことをするのはとっても大変なのです。
これらのことから、「みんながやっていること」が実は無意味であるとき、様々な問題が発生してきます。
本書に挙げられていた例えはとても分かりやすいでしょう。
たとえば、ある会社がMR活動を中止したとしよう。そして、仮にそれが失敗に終わって、マーケットシェアと利益を失ってしまったとする。そしたら、きっと誰もが「おまえはバカか。誰もそんなことをしていなかったじゃないか」と言うだろう。
P15
実はMR活動には、「効果があるかどうか」の明確なエビデンスはないそうです。つまり、意味があるかも知れないし、ないかもしれない。ただ、MR活動に莫大な資金がかかっていることは間違いありません。
ですから、ここのコストをカットすることができたら、より有益な企業活動ができるかもしれないのです。
ところが、MR活動は「みんながやっていること」なので、「正しいこと」であり、誰も辞めるに辞めれないわけです。
人は自分だけが違った行動をして些細なミスをするよりも、みんなが同じ行動をしてみんなが大きなミスをする方が、精神的なダメージは少なくて済むのです(この理論をプロスペクト理論といいます)。
特に企業には「株主」がいるので、彼らの考えも汲まなければなりません。
例えば、A社が「他の会社もみんなやっていることだけど、絶対に上手く行かないことだから辞めておこう」と思ったとしましょう。
しかし、多くの場合、結局はA社もそれをやるはめになります。
なぜなら、A社の株主が「他の会社もやっていることをやらないのか。A社は時代に乗り遅れている。もう先がない」と評価し、A社の評価が株主の間で落ちてしまえば、株価も下がって経営に支障を来すからです。
このように、「真似をする」という経営戦略自体は正しいし、どこの企業もそれをやっているわけです。
ところが、その目的までよーくみてみると、精神的なダメージを軽減したいからであったり、株主の評価を気にして消極的理由でであったりと、果たしてそれを経営戦略と言っていい理由でやっているのかどうかを考えると甚だ疑問ですよね。
どうでしょう?本書はこんな感じで経営の真実を丸裸にしているのです!
超面白いと思うのですが!?
経営というと企業の動向の理論であり、無機質な感じがします。
しかし、こうやって細かく見ていくと、とっても心理学的な要因が強く影響しているのだな、ということを学ぶことができるのです。
僕はこれからの心理職は「開業モデル」がどんどん一般化してくると予想しています。
その際、経営学についても明るくある必要があると考えるのですが、心理学との共通項を見いだしながら学ぶことができれば、非常にとっかかり安いのではないでしょうか?
なお、本書に寄れば、模倣しつつも少し差別化するオリジナリティを加えた戦略をとることが良いというようなことが書かれています。
ただ、そのオリジナリティを出す際の意思決定に「選択バイアス」がかからないようにという注意があります。
気をつけるべき意識決定とは「過去のこういう事例がいくつかある」「この事例の共通点はこれだ」「だからこれを取り入れよう」といった意思決定です。
なぜなら、過去の事例で僕たちの目に触れるものは、大抵がうまくいったものだけです。その背景に成功事例を凌駕する数の失敗事例があることを無視してはいけません。
このように、他の可能性を無視して都合の良いものだけを選択してしまうバイアスが「選択バイアス」です。
確かに、例えば自分でカウンセリングオフィスを立ち上げようとした時、どのような形態のカウンセリングが流行っているか調べた結果「CBTが流行っている」という数字上のデータが得られたからという理由だけでCBTをやっても上手くはいかないでしょう。
CBTをやっても上手くいかなくなって閉鎖したオフィスの情報は入ってはきませんから。
では、どうしたらよい選択ができるのだろうか。
著者によれば、
結局、より良いアイディアとは、どこからともなくやって来るのだ。
P42
教科書や経営者の自伝を見ると、さも合理的なプロセスがあったり、徹底的な分析による戦略判断があるように思えるが、そうではないのです。
こういう言説が溢れるのは、
「いやぁ、偶然思いついてしまったんですよ」と言うよりも、なんとなく格好良いだろうという理由なのだ。
P41
ということです。
結局、外に目を向けるのではなく、自分と向き合うしかないのでしょう。
ライバルがこうだからこうする、だと戦略の建てようがありません。
それよりも、自分に何ができるかをスタート地点にし、自分の道を自分の足で歩んでいく方が、自分に合った戦略が見つかるでしょう。その戦略を見つけたプロセスは後から分析したかのように見せかければよいのです。
合理的な戦略をとっているように見えても、実は周りに流されたり、偶然によって思いついてやっているだけ。これが経営に起きている赤裸々な真実です。
Capter4では、「経営者」のヤバさが書かれていました。
「経営者」という言葉から、どんなことを連想するでしょうか?
ワンマン社長、傲慢、自信過剰。
多少庶民の僻みもあるかも知れませんが、こういった言葉が思いつくのではないでしょうか?
ただ、こういう特徴が社長にむいている側面はあります。
実際、動きの速い業界では、ナルシストの経営者のほうが上手く行く傾向があるようです。
とはいえ、それは程度問題で、ナルシスト経営者は大勝ちするか、大負けするかのどっちかに転びやすく、結果の業績は謙虚な経営者とそう変わるものではないそうです。
また、ナルシストかどうかはともかく、スターとしてはやし立てられている経営者もいます。
ジャック・ウェルチやスティーブ・ジョブズ、本田宗一郎などです。ホリエモンや孫正義なんかもそうかもしれません。
僕たちはこういったスター経営者の会社が成功をおさめると、「やっぱりジョブズは凄いな」などと考えがちです。
ところが、ある研究によると
「スター経営者は、会社の業績に良い影響も悪い影響も与えていない」と結論づけた。
P108
ということが分かったらしいのです。
ではどうして彼らは成功を収めることができたのでしょうか?
それは単に運が良かったから、です。
彼らは普通の人だったら絶対にやらないようなことに手を出します。
確率論的にはそれが合理的な選択だ、と思うようなことは普通はしないのです。
しかし、統計を勉強したことがある方なら分かると思いますが、「第一種の誤り」というものがあり、「帰無仮説が正しい時に、誤ってそれを棄却してしまう」という結果が生じることが起きうるのです。
つまり、「通常は上手く行かないことが、何故か上手く行っちゃった」ということが確率論的にわずかではあるものの必ず生じるのです。
成功した経営者は、この第一種の誤りに運良く当てはまったということなのです。
「そんなバカな」「きっと何か他にはないものを優れた業績を残した経営者はもっているはずだ」
と思われますか?
では、ちょっとこちらを読んでみて下さい。
彼は気まぐれな性格と数々の芸者遊びで知られている。芸者を二階の窓から投げ落としたという話や、(略)会社の存亡がかかった銀行への融資依頼の席に、酒に酔ってコスプレで現れた話、工員の頭をレンチで殴った話
Pⅵ
これある人物の話なのですが、誰の話かわかりますか?もちろんある経営者の話です。
こんな人物が優れた業績を残す人物になり得るなんて想像できますか?
普通、こんな人は何やっても上手く行かないと思われても不思議ではありません。
ですが、彼は大変な業績を残しました。
上記エピソードの主人公は、本田宗一郎その人です。
彼はいくつもの間違った経営判断をいくつもしてきました。それでも成功できたのは、単に幸運に恵まれたからに他なりません。
そんな中で、優れた経営者とはどんな経営者のことを言うのでしょうか?
それは
優れた経営者は、語るべきストーリーを持っている。
P117
ということです。
つまり、人間的魅力であったり、商品開発までのヒストリーにその経営者の理念が含まれているかが経営者の優劣を決めるのです。
例えばアップル。
アップルと言えばスティーブ・ジョブズを思い出すでしょうが、意外なことに、アップルが過去最高の利益を上げたのはジョブズが解雇された後です。
しかし、その後、彼が再びアップルの元に戻り、アップルをまた成長させていくのです。
こういう波瀾万丈のジョブズの生き方に魅了されるので、僕たちはアップル製品を購入するのです。
商品の品質だけで言えば、アンドロイド製品にアップル製品は劣っているらしいですよ。
ジョブズが亡くなり、彼の影響力もなくなったこともあってか、スマホのシェアはもはやアンドロイド製品のほうが上回っています。
僕たちは「スター経営者はさぞかし素晴らしい経営戦略を持っているのだろう」と勘違いしてしまうが、実は彼らは単に運がよい人だった。これが経営に起きている赤裸々な真実です。
どうだったでしょうか?
今まで抱いていた「経営」のイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちたのではないでしょうか?
何を売るのかやどう売るのか、より、誰が売るのかが経営を成功させる大きな要因となっているのです。
人によっては「経営の成功失敗はしょせん運次第か」「危険だから手を出せないでおこう」と感じるでしょう。
僕もそう思います。
しかし、一方でチャンスだとも思います。
誰だって優れた経営をできる可能性があるということだからです。
今の時代、SNSで誰でも情報を気軽に発信することができます。「自分ってこんな人」ということを多くの人に知ってもらうことができるのです。
これは本書の理屈で言えば、経営を成功させる大きな要因に対して、誰でも力を注ぐことができるということを意味しています。
売る物は何でも良いのです。「自分」を売れば、自ずとその人が売る物は売れるのです。自分さえ確立できれば、誰にでも等しく本田宗一郎になるチャンスが与えられているのです。