心理職でもできる資産形成と運用

心理職でもできる資産形成と運用

FP×心理Thによる資産にまつわるアレコレのお話

摂食障害治療のこつ

 

本書は長年にわたり家族面接(「常識的な家族療法」と著者が呼ぶもの)を通して治療に関わってきた著者が、その治療の「こつ」を披瀝した実践的な臨床書です


本書は論文集となっていて、摂食障害全般に関わる話から、摂食障害にまつわる強迫の話、過食症や拒食症への心理療法アプローチについて、父親をどう治療に引き込むか、心理教育の仕方など、多方面にわたり著者の「こつ」が記述されています。


近年、徐々に摂食障害治療(援助)にはエビデンスが蓄積されてきています。「摂食障害治療において、家族へのアプローチは不可欠である」ということもエビデンス研究の賜物です。


とはいえ、エビデンスがあることは「実際の治療の現場に於いてどのようにアプローチすれば良いか」を必ずしも保証してくれるわけではありません。



例えば、

症状を吟味するのは、患者に嫌われると思うのは間違いである。信頼できるとみた治療者に対しては、自らの食行動について一種の情熱を込めて語るものが大多数である。

P11

 

患者の回復恐怖を家族に披露するにはいささかの工夫が要る。まず第一に少なくとも二、三回の家族面接が先行している必要がある。それによって家族と治療者との間にすでにある程度、相互の信頼関係が成立していなければならない。

P113

といったようなことは、実際に長年患者と接した者でないとなかなかわからないことではないでしょうか。

 


同時に、

病症の軽重の判定に両親の共感能力の多寡を組み込んだのは、ひとつには、両親のパーソナリティの病理性は患者のもつ病理性にほぼ確実に比例するという経験を重ねてきたこと、他のひとつは、両親の共感能力の多寡は治療効果にいちじるしく影響するという経験に基づいている。

P73

とする記述は、近年のエビデンスとも合致するところですし、著者の観察力の確かさの証明となっていると思います。

力のある臨床家の記述はエビデンスの有る無しに係わらず、引き込まれますね…。

僕の経験上、摂食障害の治療を行おうと思ったら、患者のソーシャルサポートを最大限に引き出す必要があるように思います。

 

著者のように家族療法を基盤にした臨床観は、摂食障害治療においてマストと言っても過言ではないでしょう。

 

本書は論文集なので、気になるところから読み進めることができます。

目次を記載しておきます。

きっと興味ある章があるかと思いますよ。

 

摂食障害と強迫
アノレクシア・ネルヴォーザ覚書
過食症に対する外来心理療法の原則
神経性無食欲症に対する常識的な家族療法
父親の態度に照らしてみた摂食障害の発達の病理
摂食障害患者とその家族に対する心理教育的アプローチ
摂食障害者の家族」補遺
「粗っぽい家族療法」について
受診しない摂食障害者の家族援助による治療

 

編集後記研究を積み重ねることでわかってきたことは、もちろん参考になりますし、参考にするべきでしょう。それは疑いようのない事実です。
しかし、それだけだと抜け落ちてしまう大切なものがどうしても出てきてしまうように僕には思えます。
本書のような「その道の第一人者」による観察による知見も踏まえておかなければ、立体的な治療・援助とはならないのではないだろうか、とそう思うのです。

少なくとも僕のような凡人は、理論で武装するとともに、著者のような巨人の肩に乗らなければ、目の前のクライエントに有益な介入をすることはなかなか難しく感じます。

なお、本書がそもそも古い物であるので仕方が無いのですが、現在摂食障害治療として推奨されている方法から逸脱する記述もあります。もし本書を手に取るときにはその点だけ注意してください。
とはいえ、著者の基本的な姿勢は現在も色あせることなく健在だと思います。