心理職でもできる資産形成と運用

心理職でもできる資産形成と運用

FP×心理Thによる資産にまつわるアレコレのお話

アドラーの生涯

人がどこからくるかということしか知らなければ、どんな行動が人を特徴づけるか知ることは決してできない。しかし、どこに向かっていくかを知れば、どちらに踏み出すか、目標に向けてどんな行動をするか予言することができる。

–––––アルフレッド・アドラー

 

 

 本書は、タイトルそのまま、個人心理学の創始者アドラーの生涯を非常に綿密に記したものです。

 

個人心理学は日本では「アドラー心理学」としての名称の方が知られているでしょう。

 

アドラー心理学には多くの独自理論があります。

その中でも最重要なものの一つが、「共同体感覚」です。

一言でこの「共同体感覚」を表現するなら、「ヒトを含むあらゆるものとの結びつき」です。

晩年、アドラーはこの理論をとても重視しました。

私たち一人ひとりには生まれつき「共同体感覚」という能力が備わっているという揺るぎない信念に裏づけされたものである。その「共同体感覚」とは、人間同士の心の交流、共同生活から生まれる友愛や友情、地域社会、そして愛情というものであり、こういった特質や特性が私たちのなかで生き生きと脈打ったときにこそ、人はもっとも満たされていると感じるのだ、とアドラーは主張したのである。

P2−3

 

アドラーフロイトの弟子なのに、フロイトが個人の性的エネルギーを重視したのと、かなりかけ離れているな」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし、アドラーフロイトの弟子であったというのは実は誤りなのです。

当時、精神医学は大学の必須科目ではなかったので、アドラーは正式の精神医学の訓練を受けなかった。また私講師のジグムント・フロイトのヒステリーについての講義も聴講しなかった。

P29

アドラーが当初精神医学を学んでいなかったことも驚きですが、それ以上に、もともとアドラーフロイトにそれほど興味が無かったことも興味深いです。

 

現実問題として、どのようにしてアドラーフロイトが邂逅したのかの詳細はわかっていません。

しかし、フロイトの勉強会にアドラーを招待したのは、他ならぬフロイトであったようです。

親愛なる同僚

(中略)勉強会を企画しています。(中略)参加なさいませんか?次の木曜日に集まります。お越し頂けるかどうか、そして木曜の晩でご都合がよいか、あなたの好意的なお返事を期待しています。

 

あなたの仲間として心から   フロイト

というアドラーに宛てた手紙が残されているのです。

 

 

アドラーフロイトの弟子であったかどうかはともかくとして、2人が袂を分かったというのは誰もが知っていることと思います。

2人の間には、共通点もありましたが、当初から多くの相違がありました。

 

まず、フロイトは比較的裕福な患者を診ていました。

アドラーある種、それとは正反対の患者を診ていました。アドラーの患者は裕福ではなかったのです。

もちろん、収入も見込めません。

 

しかし、アドラーにとってそれは大したことではありませんでした。

医師という仕事をすることでこの世界を変えていきたかったのであり、個人的な富を肥やすことを願っていたのではなかったのである。

P44

 

このような現場で実践を行っていたからか、アドラーは富と健康度についての連関にも強い興味があったようです。

アドラーの論文の目的は「仕立て業における経済的な条件と病気の関係、および低い生活水準での公衆衛生にとっての危険を叙述することだった」。

P47

更に、この問題への解決策もアドラーは提案しています。

アドラーは、この不十分な状況を終わらせるための提案をしている。新しい労働法の制定が至急必要である。と主張し、いくつかの現代的な考えを含む実践すべき義務を提案した。すなわち、現行法の厳格な実施、二十人あるいは三十人以上の労働者のいる企業だけではなく、小さな企業のための災害保険、来職と失業に備えての強制保険、一週間の最大労働時間を決めること、仕立て職人の労働環境と居住環境を分けること、出来高払いの禁止である。最後に仕立て職人のためにもっと十分な居住、および食事施設を作ることを主張した。

P48–49

 

現在ではどれも当たり前のこととなっているものばかりです。例えば、労働基準法には法定労働時間は原則週40と定められていますし、雇用保険制度もあります。

しかし、このようなものが無かったときに上記したようなものにまで言及していたとは、アドラーの先見の明には驚かされます。

 

アドラーの理論は、認知理論、対人関係理論と細分化することができ、それらは現在エビデンスドベースドとして使用されている多くの心理療法の源流となるものとされています。

 

アドラー心理学を学ぶことは、そういった心理療法の土台や足場を固めることにも繋がります。

 

是非興味を持たれたかたは、個人心理学の創始者ルフレッド・アドラーに、本書を通じて出会って欲しいなと思います。