心理職でもできる資産形成と運用

心理職でもできる資産形成と運用

FP×心理Thによる資産にまつわるアレコレのお話

FACTFULNESS(ファクトフルネス)

マインドフルネスより、ファクトフルネスの方がストレス軽減効果が高いかも知れません

 

あなたはどれくらい世界のことを知っていますか…?

 

僕たちは、自分が思っているほどには賢くはないのかも知れません。

 

試しに、以下のクイズに答えてみてください。

 

質問3 

世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?

A、約2倍になった

B、あまりかわっていない

C、半分になった

 

 

質問9

世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどれくらいいるでしょう?

A、20%

B、50%

C、80%

 

 

 

いかがでしょうか?上記問題は本書から抜粋したものです。

 

では、答えを言います。

上記問題の正答はいずれもCです。

 

正答できましたか?

もし間違えたとしたら、世界の見方を間違えている可能性が大ですから本書を読む価値は充分にあるでしょう(僕は両方間違えました…)。

 

とは言うものの、むしろ正答できる人の方がまれなようです。

質問3に関しては

これほど初歩的な世界の事実でさえ、広くは知られていない。正解率は平均で7%。正しく答えられたのは10人にひとりもいなかった。

P014

とのことです。

ちなみに、本書にあるデータによれば、質問3に正答できる日本人は10%だったとのことです。

 

同じく質問9は

いまや、世界のほとんどの子供がワクチンを接種している。またしても、すばらしいことだ。もはや誰もが最低レベルの近代的医療を受けられる時代になった。しかし、ほとんどの人はこの事実を知らない。正解率は平均でわずか13%だった。

P015

とのこと。

質問9に正答できる日本人はわずか6%です。

 

この数字は明かに適当に答えたら当たる確率よりも低くなっています。

同じ質問をチンパンジーにも行ったとしたら、正答率は恐らく33%になるでしょう。なぜなら、先入観なしに適当に選ぶはずだからです。

 

どうして人間はこれだけ不正解率が高くなるのでしょうか?

 

考えられる理由は2つ。

一つは、僕たちが世界に対して、誤った知識、古い知識を持ち続けているからです。

間違った回答を正答だと思って選択しないと、上記のような正答率(33%を大きく下回る正答率)には絶対になりません。

 

そしてもう一つは、僕たちがドラマチック(過激・極端)な回答をつい選んでしまうバイアスを持っているからです。

貧困は実際には減っているのに、「2倍になった」と考えてしまうのはその典型です。

 

しかし、

世界の見方が間違っていたら、正しい推測もできない。

P021

のです。

 

特に、ドラマチックなものの見方から抜け出すことは困難です。

例えば、糖質制限ダイエット。そのセンセーショナルさからか、このダイエット方法を実施する人は後を絶ちません。

 

しかし、糖質は三大栄養素の一つです。普通に考えれば、どうして三大栄養素である糖質をカットするという発想が出てくるのかよくわかりません。バランスよく栄養を取るのが一番のダイエットになるはずです。

でも僕たちはすぐにドラマチックな情報に流れてしまうのです。

 

このドラマチックな方向に流れてしまう傾向を、著者は「ドラマチックな10種類の本能」と呼び、それらについて1つひとつ定義づけています。

 

①第一の本能は「分断本能」です。

人は誰しも、さまざまな物事や人々を2つのグループに分けないとすまないものだ。そして、その2つのグループのあいだには、決して埋まることのない溝があるはずだと思い込む。これが分断本能だ。

P030

とのことです。

確かに、僕たち心理カウンセラーの世界でも、「臨床心理士持ちの公認心理師」と「臨床心理士を持っていない公認心理師」とに世界を分断するような発想を持っている場合が往々にしてあるような気がしますね。

 

けれど、本来は資格の有無ではなく、その個人こじんに関わる問題であり、主語を大きくして語っても現実に即した議論は出来ないはずなのです。

 

 

 

②二つ目の本能は「ネガティブ本能」です。

世界はどんどん悪い方向に行っていると考えがちな傾向のことです。

 

日本での年金問題なんかはその典型かも知れません。少子高齢化によって年金の受給すら怪しいという議論です。

 

しかし、年金は公的な制度であり、年金が崩壊するときは先に国が崩壊します。

それに、大抵のデータが「このまま少子高齢化が進めば」という最悪の状況を想定した上で挙げられているものです。

しかし、平均への回帰が起きるかもしれず(つまり出生率が徐々に回復する)、外国人労働者が増える可能性だってあるのです。

そういった可能性を無視して最悪の予想から導きだした結論は、そりゃネガティブなものになりますよね。

 

ところが、僕たちはなかなかこの本能にも抗うことが困難です。

心理カウンセラーなら誰でも「議題設定効果」「ネガティビティバイアス」を知っているはずなのに、そんな心理カウンセラーでさえ、ニュースで「年金がヤバい」と言われ続けると、「そうなのかな」と思ってしまうのです。

 

しかし、このような発想に立っていると、いつしか

「何をやっても無駄だ」と考えるようになり、世界をよくする施策に対しても否定的になってしまう。

P088

可能性大ですから、注意したいものです。

 

 

 

③先述の「このまま少子高齢化が進めば」という想定とも関係するのが、第三の本能「直線本能」です。

キーワードは「ひたすら」だ。

P100

とあるように、僕たちは一定の傾向がずっと続くように錯覚します。

 

 

 

④第四の本能は「恐怖本能」です。

人間が生き抜くためには、自分にとって害になるものに敏感でいることの方が合理的でした。

蛇のように見えるだけのものでも、「蛇だ」と思って行動する方が、本当に蛇だった時のリスクを回避出来ます。

いちいち「ん?これは蛇か?それともただの棒か?」と考えていたら、その隙に蛇に噛まれて大変なことになりかねません。

 

こういう本能があるので、人はつい、恐怖を喚起させられる情報に敏感になるのです。

そのことをメディアは知っているので、ことさら恐怖を煽るような情報を流し続けます。

その結果「危険なことだらけだ」と錯覚するのです。本当は、世界はどんどん平和になっているのに。

 

例えばテロ。

テロは僕たちが生活している比較的豊かな国ではその数は減っています。

飲酒による殺人や交通事故で殺される確率の方が、テロリストに殺される確率よりも50倍も高いのです。

しかし、アメリカの同時多発テロ事件の当年と14年後を比較すると、「家族がテロの犠牲になるかもしれない」と考えている人の割合は両方とも51%だったそうです。

それだけ、「恐怖」という感情は現実を歪めて見せてしまうのです。

 

 

 

⑤そして、五つ目の本能は「過大視本能」です。

この本能は2種類の勘違いを生みます。

まず、数字をひとつだけ見て、「この数字はなんて大きいんだ」とか「なんて小さいんだ」と勘違いしてしまうこと。そして、ひとつの実例を重要視しすぎてしまうこと。

P167

がそうです。

 

例えば、「420万人の赤ちゃんが世界で亡くなっている」と言う情報を知ってどう思いますか?

「とても多くの赤ちゃんが亡くなっている。世界はまだまだ悲惨な状況だ」と考える人が多いのではないでしょうか?

 

しかし、もしそう思ったとしたら、まさしく「過大視本能」の罠に引っかかっています。

この数字が本当に大きいのかどうかを判断したいのなら、比較をしなければなりません。

 

420万人というのは2016年の数字ですが、1950年には1440万人の赤ちゃんが亡くなっていたのです。

 

どうでしょう?最初聞いた「420万人」という数字の印象と変わったのではないでしょうか?

 

注意して欲しいのが、「420万人が少ない」と言っているわけではありません。

本書でも指摘がありますが、「悪い」と「良くなっている」は両立しうるのです。

 

 

 

⑥六つ目の本能が「パターン化本能」です。

実際にはまったく異なる物や、人や、国を、間違ってひとつのグループに入れてしまう

P190

のです。ステレオタイプの一種と思ってもらえれば良いかと思います。

 

 

 

⑦7つ目は「宿命本能」です。

「ある現状に陥ったのにはそれなりの理由があるはずで、それはずっと変わらないだろう」という思い込みです。

 

心理カウンセラーは「薄給」という宿命を負っていて、それをどこかで正当化してしまっている部分があると感じるのは僕だけでしょうか。

もし、皆さんもそう薄々にでも感じているとしたら。僕はこの本能を、皆さんと一緒に打ち破りたいと思っています。

 

 

 

⑧世の中のさまざまな問題にひとつの原因とひとつの解答を当てはめてしまう傾向が、8つ目の本能、「単純化本能」です。

著者は

これは自分の専門分野でも当てはまる。自分の意見に合わない新しい情報や、専門以外の情報を進んで仕入れよう。(中略)それが世界を理解するすばらしいヒントになる。

P241

と述べています。

 

心理カウンセラーの世界だけで考えても、自分のオリエンテーションだけにこだわらないことが大切だということですね。

もちろん、心理カウンセラーだからといって、心理学だけを勉強すれば良いという話でもないことは言うまでもありません。

 

 

 

⑨個人的に、一番生産性がない本能だと思ったのが、九つ目の「犯人捜し本能」です。

物事の原因を常に、自分以外に求めてしまうような傾向を指します。

 

僕たちは、ついこの本能に基づいた意思決定してしまいがちですが、いつまでもこの本能に従っていたら成長がなくなってしまいます。

 

誰かを責めることに気持ちが向くと、学びが止まる。

P265

 

気をつけたいところです。

 

 

 

⑩僕たちの判断を誤らせる最後の本能は、「焦り本能」です。

即決も時には大切ですが、焦りに基づいた意思決定は、批判的推論という過程を経ていないので、その分誤りやすいのです。

 

認知行動療法(CBT)では「自動思考」を扱いますが、これは複雑な推論を経て生じた思考ではないため、多くのバイアスがかかっています。認知再構成法という技法は、まさにこのバイアスをじっくりと検討することで、「自動思考の根拠のなさ」を査定していく技法です。

 

 

以上、10もの本能が僕たちの世界の見方を曇らせます。

これらに対して何らかの対策をしなければ、世界を正しく見ることができません。

 

本書には、そのための処方箋もしっかりと書かれています。

そのための方法こそが、マインドフルネスならぬ、ファクトフルネスです。

 

その具体的なやり方は……、是非本書を手に取ってお確かめください。損はしません。

 

余談ですが… 

冒頭に二つクイズを出しましたが、本書には他にもいくつかクイズが記載されています。

このクイズ、web上でも出来るみたいですので、興味のある方は

Gapminder Test 2018からチャレンジしてみるとよいかも知れません。

 

編集後記ファクトフルネスは毎日の生活に取り入れて習慣化させることができるとのことです。訓練をするだけで、事実に基づく世界の見方ができるようになれば、とても合理的・建設的に生きることが出来るようにもなるでしょう。

事実に基づかない考えは、単なる感情論であり、印象に流された意見であり、好奇心のない生き方です。どうせ生きるなら、事実に常に驚きをもって接せられる楽しい生き方がしたいと僕は思っています。 

本書は、心理学とはまったく関係がない本です。資産形成とも関係がありません。しかし、それでもなお、強くお勧めしたい本です。
手放しでお勧めできる良書です。是非とも本書を通して、事実に基づいた視点の獲得の第一歩を踏み出しましょう。