心理臨床家の個人開業
心理カウンセラーとして個人開業を考えている方には必読ではないでしょうか。
本書は少し古く、公認心理師が成立する前のものですが、充分に読む価値はあります。
著者は精神分析をオリエンテーションとしているようですが、そこもあまり考慮に入れる必要がありません。心理臨床を実践するならば、オリエンテーションがどうであれ誰にでも通底するその哲学について記述してくれているからです。
このブログでは、個人開業の方の働き方を事業所得の面から考えていますが、そういった知識だけあっても個人開業では通用しないでしょう。
例えば、
セラピストは、開業の中に居、止まろうとする限りにおいて、いつもどこかで、クライエントを“固定客”や“常連客”、“お馴染みさん”に、いやもっと言えば、“不動産”に、してしまいたいという誘惑に晒されているのである。
P285
という記述のあまりの生々しさ。これは経験をしたことが無い人にはわからないリアルだと思います。
また、
私は、心理面接そのものについても考え直すことになった。“自分はここで何をしているのだろう?”“何についてお金を頂いているのだろう?”と。そしてその過程の中で、心理面接を生業とする者が、実は本来抱えている孤独に気づいていったのである。
P347
という記述は、1人で「お金を稼ぐ」ことの重圧や責任、それに伴う強烈な孤独をしめしています。
どんなにきれいごとを言おうが、結局は仕事とお金は不可分です。避けては通れない話題です。
個人開業の場合、それがあまりにもダイレクトです。
そのため、「クライエントの福祉に貢献したい」という純粋な気持ちから仕事をしていても、お金での危機に瀕すると、どうしてもそれを維持することへの誘惑にあがなうことが難しくなる。でもそうすると、最初の志「クライエントの福祉に」との間に心の中でせめぎ合いが生じる。とても難しい課題です。
しかもその課題を孤独の中で抱えなかればなりません。
是非興味のある方は手にとってみられることをお勧めします。