臨床家のための対人関係療法入門ガイド
対人関係療法(IPT)は、認知行動療法(CBT)と双璧をなすエビデンスに基づく心理療法です。
CBTとの最も大きな違いの一つは、
患者の治療にあたって、病を単独で見ていくのではなく、こうした病に悪影響を及ぼしている対人関係をも視野にいれていこうとする
P003
にあるでしょう。
IPTはCBTのように認知には焦点を当てず、患者の気持ちや感情に注目し、それを引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点を当てるのです。
このように、IPTでは全ての問題は対人関係上の状況が関与している、と考えます。
下記ツイートの図にあるように「病気は対人関係の中で発症し、対人関係の中で治る」という基本前提を持っているのです。
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ただ、ここで誤解して欲しくないのは、「対人関係に原因があるから病気になる」といことではない、ということです。
IPTでは原因論をとりません。何が病気の直接的な原因になっているかは問わないのです。
しかし、病気と対人関係は密接に交互作用しているとは考えます。
この「病気」と「対人関係」、変化を起こすことができるのはどちらでしょうか?
もちろん「対人関係」です。もし「病気」をコントロール出来るのであれば、それは病気とは呼ばないでしょう。
IPTでは、この考え方から、病気を治すのに役立つ対人関係の「スキル」を身につけることを目指すのです。自分の力でストレスとなる対人関係に変化を起こす様になれることが目標です。
もちろん、「対人関係上の状況が関与している」といったからと言って、「相手方が悪い」ということも意味してはいません。
対人関係は常に相互作用です。どちらが良い悪い、ということはありません。
ただ、コミュニケーションの在り方と、双方が期待し合っている期待にズレがあるのです。
相手に対して、その人ができないことを「やれ」と期待してもその期待は絶対に実現しません。できないことに対してイライラしても仕方が無いのです。
こういうときは、お互いが気持ち良く交流できるように、相手ができること・相手に頼めることにまで期待を整理していく事の方が、よっぽど現実的で建設的です。
IPTで目指すのは
「症状と対人関係問題の関連」を理解し、対人関係問題に対処する方法を見つけることによって症状に対処できるようになること
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なのです。
IPTは病気を治すことに特化したものです。
しかし、その考え方自体はあらゆる対人関係にも有益です。
人が持つ資本は三種類あります。
経済的資本、身体的資本、そして対人的資本です。
対人的資本を大切にしていくためにも、良好な対人コミュニケーションは欠かせません。IPTがそのヒントになってくれることは間違いないでしょう。
本書には「IPT治療者の言い方の例」として具体例があるので、「こんなときにはこういう言い方がよさそうだ」と応用ができるはずです。