心理職でもできる資産形成と運用

心理職でもできる資産形成と運用

FP×心理Thによる資産にまつわるアレコレのお話

モーズレイ摂食障害支援マニュアル

摂食障害、特に拒食症を抱える患者・クライエントとお会いする心理カウンセラーは必読です

 

いきなり引用ですが、

本書は、年齢や診断を超えて、家族と共にどのように協力していくかについて述べた手引書である。

P006

 

とあるように、摂食障害治療において家族の積極的な参加を促し、そのあり方についてまとめたものが本書の役割となっています。


現在、摂食障害についてエビデンスのある治療法としては、過食症に対する認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)があります。

しかし、拒食症に対しては強いエビデンスを示す治療法は今のところありません。そんな中でも家族を巻き込み、家族の役割に焦点を当てることが推奨されています。
 

本書は、このような現状にあって、特に拒食症に対するアプローチを体系化しようと試みている非常に意欲的なマニュアルとなっています。

 
摂食障害全般に関わることをピンクの付箋、過食症に関わることを黄色拒食症に関わるところを水色と、付箋の色を使い分けながら本書を読み進めたのですが、黄色に比べ水色の付箋がずいぶんと多く使われることとなりました。

それだけ、拒食症により焦点が当てられたものとなっていたということでしょう。

 

モーズレイ付箋


拒食症はその症状の性質上、外見的特徴からすぐに病気であることが判断されてしまいます。

それゆえに家族は多くの偏見にさらされやすく、傷つく事も多いようです。


事実、(他の本からの引用ですが)

精神障害者の家族研究によれば、摂食障害患者の家族の負担は、重度の精神病性障害患者の家族よりも大きいという指摘がある。

P8

ということのようです。


その家族の傷つきは、患者への不適切な行動へと繋がり、ますます患者の症状が悪化する、というような悪循環へ陥るリスクを高めてしまいます。

 

これは心理職として、専門家として、なんとか食い止めなければならない悪循環です。

 

本書を読むことで、摂食障害についてはもちろんのこと、患者の心理、家族の心理、家族のサポートの仕方、家族への心理教育内容などを非常によく勉強させていただけます。

 

摂食障害の正確な原因は分かっていない。

P077

ゆえに、摂食障害を引き起こし、持続させている要因に目を向けるべきなのです。


患者心理としてきちんと理解しておく必要があることは、この病気の維持要因は決して“食の問題ではない”ということだろうと思います。


摂食障害は「食べ吐き」や「絶食」などの問題が目にいきやすいため、容易に食の問題にばかり焦点づけられてしまいがちです。

しかし、この病気を維持しているのは、対人関係の問題であったり、感情表出の問題であったり、自尊心の低下が問題であったりするのです。

 

従って、食の問題の改善にだけ力を注いでも、効果が出ることはあまり期待できません。もし出たとしても、それは一時的なものに過ぎないでしょう。

 

 


家族への支援のあり方として本書が指摘するのは、

摂食障害の心理教育と共に、

②家族がCBTのモデルによって自分の情緒的反応を機能分析し、

③動機づけ面接法のスキルを駆使して患者を温かく受容・理解できるように促していくこと

 

です。


それともに、

④「変化についての超理論モデル」を共有し、患者の健康行動変容の動機が今どの段階にいるのかを見定め、その段階に応じた関わりを実践していくことも含みます(詳しくは本書 第7章ご参照ください)。

 

正直、これは結構ハードルが高いことです。

CBTと動機づけ面接、受容共感スキルを身につけるのですから。専門家であっても骨が折れます。

 

しかし、摂食障害、特に拒食症の治療はそれだけの労力が必要だということなのでしょう。

 

家族にこのハードルを越えることをお願いするのですから、治療者がCBTや動機づけ面接をマスターしておく必要があることは言うに及びません。

しっかりと勉強していきたい、と襟が正される思いになりました。

 

編集後記自分の経験から、拒食症に対する治療は非常に難しいと感じます。
それは治療者の力量が如実に反映するからです。有効な治療法がない以上、参考に出来るものが少なく、手探りで治療に当たらざるを得ないところがどうしても出てきてしまうのです。

そんな中にあって、現状唯一の参照枠が本書であると言っても過言ではありません。

とにかく、摂食障害で悩み苦しむ方の支援にあたっている臨床家には本書は必読であろうと思います。
これほど家族と恊働して摂食障害患者を支えるアプローチに真摯に取り組んでいる本は恐らく他にありません。
かなり厚くて読むのは大変なのですが、ご家族やご本人の大変さに比べればなんてことはありません。非常にオススメです。