年収90万円で東京ハッピーライフ
お金という価値観にとらわれない、ある一つの理想形の生き方。
著者は週休5日の悠々自適な生活を、わずか年収90万円で実現させている、いわばツワモノです。
「そんなんで生活できる分けがない。どうせ他に収入源を持つ資産家なんだろう?」
そう思われる方もいらっしゃるかも知れません。
僕も最初はそう思いました。
しかし、ご本人曰く
ITや株で儲けてアーリーリタイアとかいう、経済的に恵まれた話ではありません。宝くじも当選してなければ、親の遺産もない。
P4
とのことです。
特別な資格を保有している分けでもなさそう。介護の仕事を週2でしているそうですが、無資格だそうです。
ご両親は「貧乏」と「借金」が口ぐせの母親と、ごく普通のサラリーマンの父親で、割れた窓ガラスは段ボールで塞ぐような家で幼少期を過ごされたようです。
このような、まったく資産がない状態でどうやって年収90万で生活するのか、ましてやそれを東京でするのか…
興味が尽きません。
本書には、色々とそのノウハウが詰まっています。
ご紹介できる限りご紹介していきましょう。
まず、一日30品目食べるという目標を放棄します。
玄米とお味噌汁、そしてサバのみそになどがあればそれを食べます。
他の食材はスコーンを自分で適当に作ったり、野草をとってきます。
野菜を買ってくることもありますが、農家直売所とかで無農薬野菜を買い、「一物全体」の精神で皮から何まで余すところなく食します。
野菜は皮などに栄養が豊富に含まれていますので、食材の量が少なくても充分に栄養は足りるのだそうです。
着る服は、特にこだわりなく着れる物を着ます。
住んでいるアパートの家賃は2万8,000円。
年金は全額免除です。きちんと免除申請をしているそうなので、将来支給されないということもありません(もちろん全額は支給されませんが)。
どうでしょう?
とっても参考に……ならないノウハウですね。
なんだよ!結局特殊な人間の特殊な生き方で、何の参考になりもしない!
そう思うかも知れません。
しかし、もしこの本がただのノウハウ本であったら、僕はこのブログには絶対に紹介してはいなかったでしょう。
こうやって記事を書くのにも時間がかかります。読んで損した本だったら、そんなことに時間を使わず、次の本を読み始めることでしょう。
本書の価値は、著者のその人生哲学にあります。
この生き方のカッコいいことカッコいいこと。
著者は、僕なんかが見ると「もしかして発達障害?」と思ってしまうくらい、本当に仕事も何も出来ないダメダメだったそうです。
中華料理屋でアルバイトしていたときも
本当に、冗談抜きで、ぜんっぜん使えなかった
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らしく、ヤンキー上がりのマスターに死ぬほど怒られていたそうです。
毎日お皿を割り、バックルームから「ビールを持ってこい」と言われたときにはケースごと持って行くのではなくビン一本だけを持って行ったり、ラーメンの盛りつけは毎回オリジナルの盛りつけをしたり、そんな失敗ばかりをしていたそうです。
中学の時から高校を卒業するまで、ずっと同じジャージを着て学校に行っていたそうです。
得意だった英語は学年トップなのに、そうではない数学は0点。
そんな特徴的な著者は、中学の時には殺されかけるほどのイジメを受けていたそうです。先生の目の前でいじめっ子から殴られていても、その先生は助けてくれませんでした。
あまりにもひどいイジメだったので、親にも恥ずかしさのあまり相談できず、家に避難することも出来ませんでした。
おまけに、先述の通り、著者の家は貧乏でしたから、サンタクロースも家に来てはくれませんでした。
踏んだり蹴ったりで、良いことがない人生のように思う人は思うかも知れません。
このような経験から、著者は「人間は平等ではない」「ルールってなんだ?」「フツーってなんだ?」ということを常に考えさせられていたそうです。
そういったこともあって、著者は「もうフツーにこだわるのをやめよう」と、そんな風な考えに至ったんだと思います。
そこから著者は、やりたいことは相変わらず見つからないけど、やりたくないことを避ける生活をしようと考え、その自分の価値観にそって生き続けることを選んだのです。
その結果が、著者にとってはたまたま年収90万円で生活できる隠居生活だったのです。
「フツー」だったら思いついてもやらない生き方ですが、彼は自分の哲学を貫いたのです。
僕たちはもしかしたら「フツー」にこだわりすぎているのかもしれません。
「フツー」になるために、本当は自分には向いていないことや好きではないことも知らず知らず、よく考えずに実現させようと躍起になっているのです。
一人ひとり人は皆違うのに、画一的な「フツー」に収まろうとするなんて、よくよく考えたらとっても変なことですよね。
もちろん、著者のような生き方は誰しもが真似できるものではないし、また、真似したいとも思わない人が大半でしょう。
でも、彼にとったらこれが最高の生き方なのです。
現実的なことを考えれば、このままの生活をしていたとしたら、老後苦労するのではないかと思います。
でもそれはあくまでも客観的なものの見方であり、著者の主観ではどうかわかりません。著者は苦労すら受け容れ、楽しめる方なのではないかと思います。
世間では「孤独死」と呼ばれるような死に方を仮にしたとしても、きっと本人は「満足死」として、その死を天国で捉えることでしょう。
とはいえ、僕は野草をとりに行くつもりもないし、仕事を週2に減らすつもりもないし、年金も払い続けます。
「心理職として経済的に豊かになりたい。心理職全体がそうなるような仕組みをつくりたい」と思っているからです。まったく著者と価値観が違うのです。
僕は(大金持ちではなくても良いし、もちろん建設的で社会に貢献できる形で)経済的な豊かさを求めているのです。
ですが、著者の「自分の信念に真っ直ぐ正直に」「悔いのないように」という生き方はとても参考になりました。
人は信念を持つと、「こうあらねば」と硬くなってしまいがちです。でも著者にはそれが一切ないのです。
翻って、僕は最近ちょっと硬くなっていたなあと、本書を読んで感じました。
誰と競っている訳でもないのですよね、本当は。自分の信念を大切にしつつ、著者のように気軽な感じで、この信念を抱き続けていきたいなと思います。